8K画像技術:将来の外科手術に革命をもたらす
KIZUNA 8K画像技術:将来の外科手術に革命をもたらす 2022年2月24日 より
NHK放送技術研究所の技術を応用し、日本人医師が世界初の8K内視鏡を開発。微細な神経や血管まで大画面で映し出し、高度な外科手術をこれまで以上に安全に行える。これまでにない高解像度は医療現場にどのような変化をもたらすのか。

8K内視鏡を用いた実際の手術風景。肉眼で見るよりも精細な映像が映し出されます。複数の医師や医療スタッフが同時に手術を見ることができるため、より難しい手術にも挑戦でき、知識や経験の共有も図れます。
「まるで患者さんのお腹の中で手術をしているみたい!」
世界初の臨床手術となる8K硬性内視鏡を使った胆嚢摘出手術では、モニターに映し出される高解像度の映像に外科医が驚いていた。8K映像は、現在広く使われている内視鏡の2K映像の16倍の画素数を誇り、10メートル離れたところから新聞紙が読める程度に近く、肉眼では見えない微細な血管や縫合糸まで鮮明に映し出される。

千葉 敏夫 医学博士。胎児・小児外科専門医。一般社団法人メディカルイノベーションコンソーシアム理事長、順天堂大学医学部特任教授。8K内視鏡開発の功績により、2020年にアルベルト・シュバイツァー賞を受賞。 この世界初の8K硬性内視鏡を開発したのは、胎児の内視鏡手術を行ってきた外科医の千葉俊夫医師。当時の内視鏡は画質が悪く、光に弱いなど、改善の余地があると感じていた。 国立成育医療研究センターに勤務していた2006年、NHKで放映された飛行機ハイジャック犯逮捕のドキュメンタリー番組に釘付けになった。真夜中の真っ暗な中での撮影にもかかわらず、関係者の顔がはっきりと映っている点に強く注目した。 この映像技術を内視鏡手術にぜひ活用したい。そこで、事前のアポイントを取る間もなく、勤務先の向かいにあったNHK放送技術研究所に直行。幸運にも当時の所長、谷岡健吉氏と偶然出会うことができた。意気投合した2人は、まずHARPと呼ばれる暗視技術、続いて超高精細8K技術を硬性内視鏡に搭載する開発をその場でスタートさせた。 2014年に臨床導入された8K内視鏡の試作機の重量は2.5kg。手術に実用化できるほど小型軽量化するのは大きな課題だった。しかし、試行錯誤を重ね、わずか4カ月で450gまで軽量化することに成功した。2017年には8K硬性内視鏡が製品化され、その後8K手術用顕微鏡も発売された。

8K内視鏡は、NHK放送技術研究所が開発した放送用8K画像センサー技術を応用し、千葉博士らが開発した。エア・ウォーター・バイオデザイン株式会社

8K 画像は、一般的に使用されている 2K 画像よりも多くのピクセルを備えているため、被写体の細部まで鮮明に見ることができます。
「日本は8Kの撮像素子や内視鏡レンズの技術力が非常に高いので、実用性が大幅に向上しました。従来の内視鏡と比べて、8Kははるかに臨場感があります。一度体験したら、昔の画質には戻れません」と千葉氏は語る。体内の微細構造を観察できるこの技術は、より安全で正確な手術を可能にするだけでなく、これまで非常に困難だった手術も可能にする。「熟練した外科医の手術映像を教育に活用したり、専門医によるオンライン診療や遠隔手術がはるかに簡単に行えるようになります」と千葉氏は語るように、医療の可能性は多岐にわたる。8K
内視鏡の技術を最大限に活用するには、膨大な8Kデータを効率的に共有するための5Gや光ファイバーなどの高速通信ネットワークの整備が不可欠だ。そして、人間の手よりも精密な操作が可能なロボット鉗子の開発や、より迅速かつ正確な画像診断が可能なAIの進化が進めば、8K内視鏡は真価を発揮できるだろう。
「良いものをいかに早く現場に届けられるかが重要です。そのためには、国境や業種を超えたオープンイノベーションが必要だと考えています。もちろん、海外の方や企業と連携してインフラの構築や8K技術を生かした技術開発にも取り組んでいきたいですね」と千葉氏は語る。
テレビ放送を中心に発展してきた日本の映像技術は、医療の未来を変えるほどのインパクトを与えている。より良い医療の実現に向けて、千葉氏はこれからも挑戦を続けていくに違いない。